2019年06月30日 (更新:2020年08月05日)
バンパーとは?~歴史からひも解く構造と役割の変化~
現在は歩行人と車を衝突から守る役割の強いバンパー。その昔は車を守るものとして、多少の衝突ではビクともしない、頑丈なバンパーが取り付けられていました。時代の要請とともに姿カタチを変えてきたバンパー。歴史をたどりながら、これまでの変化を振り返ってみましょう。
バンパーとは?
そもそもバンパーとは緩衝装置のことで、衝突した際に、そのエネルギーをバンパー自体が変形することで吸収する役割を持っています。
保険会社が生み出した5マイルバンパー
※日本仕様よりバンパーが長くなっている
1973年からアメリカと北米では大型のバンパーが取り付けられることになりました。これは、衝突時にバンパーをはじめとするラジエター、操舵装置、燃料タンク、ラジエター、排気系などの大きな損傷を与えないようにするためといわれています。
これは、通称「5マイルバンパー」と呼ばれていて、時速5マイル(約8㎞/h)で衝突した場合に、バンパーが衝撃を吸収し被害を最小限にするための措置と考えられています。ただ実際には、諸説あるようですが、保険会社が低速度での接触事故が後を絶たず、多額の保険金の支払いに対する措置だといわれることが多いようです。
スタイル的には、バンパーから突き出した突起物が目立ち、重量も重かったので不評でした。
しかしそんな中であっても、ポルシェに至っては人気車種として今でも話題になっています。911の2代目である930型は、「ビッグバンパー」の愛称で知られていますよね?時代の流れの中にあっても、スタイリッシュに仕上げられるのは、ポルシェだからなのかもしれません。
バンパーは元々金属製だった⁉樹脂製へと変わったワケ
元々金属製だったバンパー
金属製バンパーの最大のメリットはコストが安いこと。プレスで成型でき、ぶつけたとしても板金修理が可能なので安価に直すことができました。しかし、その反面、デザインの自由度に乏しく乗用車では徐々に用いられなくなっていきます。現在でも大型・中型トラックなど、生産・維持の両面でコストの重要性の高い商用車の一部車種においては引き続き用いられています。
樹脂バンパー採用へ
現在の車は空気抵抗を低くし、軽量化を図ることで燃費性能を上げるパーツが必要不可欠です。また何よりも安全性を高めることが重要なので、樹脂素材のバンパーなら車の乗員にも歩行者にも衝撃を緩和する大きな役目を果たすことができると考えられています。
主流はポリプロピレン
※ポリプロピレンはバンパー以外にもバッテリーなどに使われる。
車の部品として使用される樹脂には繊維強化プラスチックのFRPやABS樹脂もありますが、これらは破損したときに鋭い断面ができてしまうという欠点から現在はPP(ポリプロピレン)を主流に使用しています。
バンパーの構造は?
バンパーの中はどうなっているのでしょうか?その構造を見ておきましょう。
フロントバンパー
バンパーを外してみると内部は空洞になっています。衝突した際に、そのエネルギーをバンパー自体が変形することで吸収する仕組みなのです。また車体側は、フロントバンパーリンホースメントと呼ばれる衝撃吸収構造になっており、前面にはいくつもの大きな穴があけられています。
裏側には非常に硬い鉄板が取り付けられ、フロントバンパーリンホースメントでは吸収しきれなかった衝撃は、もうひとつのエネルギー吸収装置であるクラッシュ・ボックスをつぶすことで衝撃を和らげる構造です。
その左右にはサイドメンバー、コアサポート、クロスメンバーが取り付けられておりエンジンの周囲を箱型に囲い破損を防ぎます。フロントバンパーは真っ先に障害物に触れることで障害物との衝突を緩和するとともに、車体の破損も和らげる役目を担う目的があるため、頑丈に作られているわけではなく、どちらかといえば破損しやすくなっているのです。
リアバンパー
こちらもフロントバンパーと同様に空洞です。構造自体にそれほど変わりはありません。しかしクルマの後方は視認性がほとんどないために、障害物に気付かず破損してしまうことが多いものです。
また不意に追突される場合もあるので、搭乗者を保護する役割があります。フロントバンパーと同様に頑丈に作られていないからこそ、車体の後方を守るという大切な役割があるのです。
衝突安全保護による制約
1993年に「道路運送車両の保護基準」が改訂されると、1994年には自動車メーカーには前面衝突試験が義務付けられるようになりました。翌年からトヨタ自動車を皮切りに衝突安全に対する意識が高まり始めます。各メーカーも開発に乗り出し、今まで安全とされてきたことや、気にも留めていなかった危険性についてさまざまな研究が進められることとなったのです。
モーガン
1910年にオリンピアモーターショーで3ホイラーを発表し、1936年に発表した4/4は現在に至るまでフルモデルチェンジをしていません。当然のことながらアイアンバンパーが装着されていましたが、現在では安全基準の適用を受け突起物と判断されるため、衝撃吸収用のラバー(通称かつ節)を貼ることになりました。クラシックなフォルムを守りながら、現代にも通用するスタイルはどこかモダンな印象を与えています。
ポップアップボンネット
最近の車に装着されるようになってきたポップアップボンネット。メーカーによってはフードというところもあるようです。これは、衝突時にボンネットが上に持ち上がることで、歩行者への衝撃を緩和しようというもののこと。
万が一歩行者とぶつかった時に、固いエンジンなどとの間に空間を作り、歩行者の頭部に与える影響を小さくしようというシステムです。ボンネットの位置が低い、スポーティな車のための技術といえるでしょう。
例えば、一般的な車ならば、ポップアップさせなくてもある程度の空間が、エンジンルーム内に確保されています。しかし、車高の低い車では、人に与える衝撃が直に伝わってしまいます。約10㎝のボンネットが作り出す隙間で、助かる命へと変えることができるのです。
次世代のバンパー
ポップアップボンネットの開発のようにバンパーも可動式になるのかもしれません。例えば、「トランスフォーマー」のようにかたちを変える車へと進化する可能性もあるのではないでしょうか?また衝突防止装置の普及により、衝突が完全に無くなる時代が来ると、バンパー自体の役目は無くなり、車のデザインにもっと自由な発想が生まれることも考えられますね。
まとめ
時代は令和になり、事故は仕方がないこととは言えなくなりつつあります。自動車メーカーの取り組みは、車が人を傷つける道具であってはならないということを教えてくれています。利便性があり、そして楽しませてくれるものであってほしいものです。共存安全の思想から今後も変わり続けていく車の未来に期待が高まります。