2018年11月17日 (更新:2020年09月25日)
トルクとは?トルクの意味や馬力との違いなど、ありがちな疑問を解説します!
あなたにちょっと難しい質問をします。車のエンジン性能を表す単位で最大トルクという項目がありますが、このトルクの意味や馬力との違いについて答えられますか?今回はトルクの意味と馬力との違いについて説明します。
トルクとは?
トルクは、よく瞬発力や力強さと言い換えられたりします。トルクはスペックを見る上で馬力(パワー)と切り離して考えられがちですが、これは間違い。
実はトルクと馬力は密接に関係しており、馬力はトルクがあってのものだからです。どういうことなのか見ていきましょう。
エンジンの性能を表す要素は3つある
トルクと馬力の関係性を表すためには、まずエンジンの性能に関わる3つの要素の理解が必要です。この3つの要素を簡単に表すと以下のようになります。
- トルク:エンジンがもつチカラ
- 回転数:エンジンが1分間に回転する回数
- 馬力:トルク×回転数。エンジンの効率の良さ
トルクと馬力の関係を自転車に例えてみる
トルクと馬力の関係を人と自転車に例えて表してみます。ペダルは足を置くところ、クランクはフロントギアの回転軸の部分のことです。
トルク
トルクは、人間が足でペダルをグッ!と踏み込む瞬間的なチカラのこと。自転車はペダルを踏み込むことで加速します。(チカラは常に全開、ギアは固定とします)
回転数
回転数は、1分間にどれだけの回数クランクが回っているかということ。左右のペダルを踏むことで、クランクは回転します。
馬力(パワー)
馬力は、前述の通り以下の式で算出します。
馬力=トルク×回転数
自転車の場合、1分間にどれだけの回数踏むチカラを発揮したかということになります。
一定時間内により多く踏むチカラを使うほど自転車は加速するため、馬力が高いことは最高速度が高いことを意味します。
馬力の高さは最高速度に関わる
クルマの場合、馬力はエンジンが1分間にどれだけのトルクを発揮できるか(効率の良さ)を表すこととなり、効率がよければよりスピードを出せることになります。
馬力が高いエンジンは、より高い最高速度を狙えるエンジンというわけです。(実際の最高速度はギヤ比なども関係してきます。)
じゃあトルクが大きくてめっちゃ高回転まで回るエンジンを作ればいいじゃん!ということになりますが、これが難しい問題です。
トルクと回転数を同時に高めることはできない
トルクが大きくなるのはロングストロークエンジン
トルクが大きくて高回転なエンジンは馬力が高いということになりますが、自動車のエンジンの場合、トルクを大きくするにはピストンが上下に大きく動くロングストロークエンジンが有利になります。
ロングストロークエンジンは、クランクシャフト中心からコンロッド接続部までの距離が長い、つまり支点と力点の距離が離れているためトルクを稼ぎやすいという特徴があります。自転車で例えるとクランク軸からペダル軸までの距離が長いということで、ここが長いと脚の動きは大きくなりますが少々の坂でもラクに漕ぐことができます。
また、ピストンのボア(直径)が同じショートストロークエンジンと比較すると、排気量が上がるため爆発量が多く、よりチカラが発揮できるというのもメリット。これは、トルクを上げるためには排気量を大きくするのが効果的という意味でもあります。
回転数が高くなるのはショートストロークエンジン
逆にエンジンの回転数を上げたいときは、ピストンの上下運動が少ないショートストロークエンジンが有利になります。これは高回転になればなるほど各部に素早い動作が要求されるためで、ピストンの上下運動が大きいロングストロークエンジンでは、部品に発生する慣性力が抵抗になってしまい、高回転まで回すことができません。
しかし、ショートストロークエンジンではクランク軸からコンロッド接続部までの距離が短いためにトルクが稼ぎにくいほか、ピストンのボア(直径)が同じロングストロークエンジンと比較すると排気量が少なくなってしまい、トルクが細ってしまいます。
トルクと回転数は相反するもの
このように、クルマのレシプロエンジンはトルクと回転数の関係が相反しています。自動車メーカーは、このトルクと回転数のバランスをそのクルマの用途や目指す走行性能に合わせて調整しているのです。
また、この相反する要素をなんとか共存させようと、現代のエンジンには様々な工夫が凝らされています。
過給器で排気量を擬似的に上げる
回転数を落とさずに排気量を増やしてトルクを上げたい、そんな悩みを解消するのがターボやスーパーチャージャーなどの過給器です。
過給器はエンジンへ圧縮した空気を送り込むことで通常以上の吸気量を飲み込ませることができ、結果的に排気量が上がったのと同じ状況となります。
しかし、ターボは低回転が苦手、スーパーチャージャーは高回転が苦手など過給器によって得意不得意があるため、チョイスは慎重に行う必要があります。過給器によるエンジンルーム内の熱害も無視できません。
ピストンなどを軽量化して高回転を稼ぐ
排気量を増やさずにエンジン回転数を高めることで馬力を上げたい、そんな悩みを解消するのがピストンやコンロッドなどの軽量化です。
エンジン内で上下運動を行う部品を軽量化すると部品の慣性力が減るため、より高回転域までエンジンを回すことが可能となります。具体的にはアルミ鍛造のピストンやコンロッドなどの装着となり、同時にトルクアップを狙って圧縮比を上げるチューニングを行うこともあります。
しかし、レブリミットの再設定や圧縮比の変更などはエンジンの破損と隣り合わせのため、入念にセッティングを行う必要があります。
馬力の高さと実用性は必ずしも一致するとは限らない
トルクは加速力、馬力は最高速度に影響するということがお分かりいただけたと思います。
馬力の数字はインパクトがあるためスペックを比較する上でも先行しがちですが、普段自分たちが日常的な運転で感じている加速感には主にトルクが関係しており、常に高回転をキープするサーキット走行や最高速チャレンジをしている人以外には、馬力の高さはさほど問題になりません。
例えるならば、トラックとスポーツカーです。トラックはエンジンの回転数が低いためスピードは出ませんが、トルクが大きいため重い荷物を運ぶことができるうえ、強烈な加速が可能です。スポーツカーに乗っている方であれば、青信号の出だしでトラックに先行された経験が一度はあるのではないでしょうか。
スポーツカーはトルクが小さいため重い荷物を運ぶことはできませんが、エンジンの回転数が高いため最高速度を伸ばすことができます。スポーツカーの中でも特にNAエンジン(自然吸気)搭載車はトルクが小さいため、加速するにはエンジンを高回転まで回し、小さいトルクをより多く発生させる必要があります。
トルクや馬力はエンジンの回転数によって変動する
さらに、トルクや馬力はエンジンの回転数によって増減します。クルマはトランスミッションを介して足りないトルクを増幅することで、様々な走行条件下でもパワフルに走行できるよう設計されています。
トルクは中回転域
ほとんどのエンジンの場合、トルクは低回転域から立ち上がり中回転域で最大、高回転域では低下していきます。
自転車に例えると、最大トルクはペダルを強く踏み込みながら加速しているような状態です。
馬力は高回転域
馬力はエンジンの最高回転数付近で発揮されます。エンジンが高回転で回っているということは効率が良いということ。加速力は低下しますがクルマはゆっくりと最高速度に達します。
自転車に例えると、足を速く動かしているためペダルを強く踏み込むことはできないが、ペダルを早く回転させているため速度が出ている状態です。
モーターは低回転から大きなトルクを発生できる
昨今話題となっているEVやハイブリッドに搭載されているモーターは、エンジンとは異なる性能を持っています。
モーターは流す電気量を調整することで制御しており、大電流を流すことで極低回転域から大きなトルクを発揮することができます。そのため、街乗りなどの発進加速が多い走行条件ではEVのほうが有利と言えます。
EVの場合はトランスミッションもないため、加速がスムーズなのも利点のひとつです。
トルクと馬力のそれぞれの単位
トルクの単位
トルクの大きさを示す単位は1993年以前は kgf・m(キログラムメートル)が使われていましたが、現在は ISO国際規格への移行が義務づけられ、トルクの単位にはN・m(ニュートンメートル)が使われています。
N・m と kgf・m との換算は、
1N・m = 0.10197kgf・m
1kgf・m = 9.8067N・m
となります。
馬力の単位
1馬力とは75kgの荷物を毎秒1メートル動かす力のことを言います。現在は1999年に公布された新計量法によって全世界共通の単位であるKW(キロワット)の表示が義務付けられており、どの国でも同じ単位を使っています。
しかし以前は、PS、HP、CVなど国によって単位が異なり、値もそれぞれ少しずつ違うため出力の比較が面倒でした。
- PS:ドイツ語「Pferde starke」の頭文字。主に日本とドイツが使用
- HP:英語「HorsePower」の頭文字。主にアメリカ、イギリスが使用
- CV:イタリア語「Cavallo(馬)Vapore(蒸気)」の頭文字。主にイタリアが使用
※PSとCVは表示が違うだけで中身は同じです。
クルマの性能は馬力のみでは測れない
馬力とトルクの関係はなんとなくお解りいただけましたか?トルクとは瞬間的な力で、馬力とはそれを効率よく持続する力とでもいいましょうか。
今までエンジンの馬力だけを重視する傾向にあった人も、トルクや回転数が自動車の性能に大きな関係があることを知って頂ければ幸いです。