2021年12月04日 (更新:2024年11月14日)
トヨタが本気で作ったGRモーターオイル、開発秘話を取材しました!
トヨタが販売しているハイエンドエンジンオイルがGRモーターオイル。CARTUNE内でも絶賛されているGRモーターオイルの秘密を、TOYOTA GAZOO Racingに直接取材しました!
TOYOTA GAZOO Racingが本気で作ったエンジンオイル
TOYOTA GAZOO Racingが開発・販売しているGRモーターオイル。話題沸騰中のこのハイエンドエンジンオイルのスペックや開発背景を、TOYOTA GAZOO Racingに取材しました。
GRモーターオイルのラインナップと価格
GRモーターオイルのラインナップと価格は次のようになっています。
オイル | 4L価格(税込) |
---|---|
Circuit 0W-16 | ¥13,200 |
Circuit 0W-20 | ¥13,200 |
Endurance 0W-20 | ¥14,080 |
Touring 0W-30 | ¥8,800 |
Touring 5W-40 | ¥9,460 |
GRモーターオイルのベースオイル
まず、オイルの性能を左右するメインの要素としてベースオイルがあると思いますが、GRモーターオイルではどんなベースオイルを使用しているのでしょうか?
ベースオイルにはグループ3+を使用しています。ベースオイルはグループ1〜5に別れていますが、トータルで良い性能を発揮できるよう検討を重ねた結果グループ3+を使用することにしました。GRモーターオイルでは、グループ3+の中でもさらに高品質なものを使用しています。
グループ3+とはグループ3のベースオイルの性能をさらに高めたものです。以前まではグループ4やグループ5などのいわゆる化学合成油が性能の良いオイルの代表格とされていましたが、技術革新によってグループ3+の性能が飛躍的に向上しました。
Circuit
スペック | Circuit 0W-16 | Circuit 0W-20 |
---|---|---|
動粘度(㎟/s):40℃ | 21.9 | 23.7 |
動粘度(㎟/s):100℃ | 6.4 | 7.4 |
粘度指数 | 274 | 310 |
HTHS粘度 150℃(mPa•s) | 2.3 | 2.6 |
交換サイクル | 5,000km交換を推奨 |
サーキットでの使用を想定しているというエンジンオイル「Circuit」ですが、これはどのようなコンセプトで開発されたのでしょうか。
Circuitは、GRモーターオイルのイメージリーダーともいえる製品です。基本コンセプトである「スーパーハイレスポンス」をキーワードに、サーキットで実際にラップタイムが上がるということを目指して開発しています。結果として、日常使いでも吹け上がりの違いをすぐに感じていただけるものとなっております。なお、こちらはNA専用オイルです。
サーキットでのタイムアップを念頭に開発するなんて、なかなかアグレッシブなオイルですね。オイルだけで0-100加速のタイムがコンマ2秒も変わるのか…。
エンジンオイルがレスポンスアップに貢献できる点として、フリクション(摩擦)の低減が挙げられます。エンジン内部の摩擦を減らすことで各部品がスムーズに動くようになり、それがそのままレスポンス向上につながります。
トヨタ純正のエンジンオイルやGRモーターオイルにはフリクション低減を狙ってFM(フリクションモデファイヤー)と呼ばれる摩耗調整剤を添加しているのですが、Circuitの場合、さらに工夫を凝らしています。
量を増やすとかでしょうか…?
当たりです、正確には種類も増やしています。しかし、そもそもMo系のFMはベースオイルに溶けにくいという性質をもっているため、Circuitでは溶けやすくする工夫を施しています。
Circuitは、FMの溶解性向上を狙ってベースオイルにエステルを配合しています。これによりFMの添加量はTouringやトヨタ純正オイルのほぼ倍となりました。これがCircuitのスーパーハイレスポンスを実現しています。
Endurance
スペック | Endurance 0W-20 |
---|---|
動粘度(㎟/s):40℃ | 37.5 |
動粘度(㎟/s):100℃ | 7.3 |
粘度指数 | 165 |
HTHS粘度 150℃(mPa•s) | 2.6 |
交換サイクル | 5,000km交換を推奨 |
Enduranceはどのようなオイルなのでしょうか。
Enduranceは、主にGRヤリスなど低粘度が指定されている高性能ターボエンジンでの使用を念頭において開発したオイルですが、NAでもお使いいただくことが出来ます。こちらはGRモーターオイルとしてのレスポンスの良さは保っていますが、より耐久走行での強さを目指したオイルとなっています。
CircuitにはGRヤリスの指定粘度である0W-20がありますよね。GRヤリスには使用不可なのでしょうか?
はい、そうなんです。GRヤリスにCircuitの0W-20を使用したいところでしたが、CircuitはNA専用のオイルとして開発していました。CircuitをGRヤリスのターボエンジンにも使用できるよう改良してはどうかという声もありましたが、そうするとCircuitのもつ切れ味の鋭い剃刀のようなフィーリングがスポイルされてしまう。そこで誕生したのがEnduranceです。
なるほど!Circuitオイルの世界観を守りたいという熱意に感動です…!このEnduranceには「耐久」という意味があると思いますが、Enduranceは耐久性を狙ったオイルなのですか?
はい、Enduranceは高耐久性を狙って開発しています。これにはEnduranceの核となるノンポリマー処方が関係しています。
ノンポリマー処方?ポリマーを使用しないということですか?
そうです。これにはまずポリマーとは何かを知っていただく必要があります。
ポリマーとは
ポリマーとは粘度指数向上剤のことです。オイルには温度が低いと粘度が上がってドロドロになり、温度が高くなると粘度が下がってサラサラになる特性があります。ポリマーとは、このように温度によって変化する粘度を安定させるための添加剤のようなものです。
こちらのグラフは、ポリマーを使用しているCircuitやTouringの油温に対する動粘度の変化を表したものです。ポリマーを添加することで、低温ではサラサラで流動性が高く、高温時ではしっかりと油膜が維持されるオイルになっています。つまり低温始動時のエンジン負荷が減り、高温時は十分な潤滑ができる。これがポリマーを使用したオイルの特徴です。
ポリマーを使うと、粘度が安定した良いオイルが作れるということなんですね。でもEnduranceはそれを使用していないと…?
実は、ポリマーも万能ではありません。エンジン内で各パーツが激しく動いてオイルを切り裂くような「せん断」力がかかると、ポリマーの分子同士の結合が切れ、少しずつですがオイルの粘度が下がっていってしまうんです。一般的なオイルで厳しい試験を行うと10%程度粘度が下がってしまうこともあります。
CircuitやTouringではせん断に強い高性能ポリマーを採用していますが、GRヤリスのエンジンは高負荷高出力なターボエンジンです。オイルには非常に過酷な環境であるため、熱や負荷に長期間しっかりと耐えられるノンポリマーオイルを採用することで、せん断による粘度低下を避け、安定したパフォーマンスを引き出せるようにしました。
適材適所というわけですね。たしかにノンポリマーオイルの特性は、富士の耐久レースやラリーなどで活躍しているGRヤリスのキャラクターにぴったりです。
ポリマーは、粘度指数を高めつつハイレスポンスなオイルを実現するには非常に有用です。GRモーターオイルのCircuitやTouringでもポリマーを使用していますから、ポリマー処方のオイルがダメというわけではないことをお伝えしておきます。
Touring
スペック | Touring 0W-30 | Touring 5W-40 |
---|---|---|
動粘度(㎟/s):40℃ | 33.1 | 54.6 |
動粘度(㎟/s):100℃ | 9.9 | 15.0 |
粘度指数 | 307 | 289 |
HTHS粘度 150℃(mPa•s) | 3.0 | 4.2 |
交換サイクル | 取扱書記載のメンテナンスサイクル |
Touringはどのようなオイルなのでしょうか。
Touringは、いわばCircuitと純正オイルの架け橋的な存在です。イメージリーダーであるCircuitの世界観やGRモーターオイルのレスポンスの良さを持ち合わせながら、より多くの方々に楽しんでいただけるグレードとして設定しました。キャラクターとしては純正とサーキットの中間で、少し高い粘度と静粛性でしっとり感を実現しています。
また、Circuitは通常の純正オイルのおよそ3倍と非常に高価です。Touringはコストパフォーマンスに優れており、ターボ含め様々な車種に使用可能ですので、多くのお客様に味わっていただけたらと考えています。
Touringの5W-40は後から追加で販売されましたが、これには理由があるのでしょうか?
はい、実はお客様の声によって後から販売が決まったものなんです。GRモーターオイルは非常に多くの方々に興味を持っていただけていましたが、オートサロンでチラシをお配りしたとき、トヨタの以前のスポーツカーであるスープラやセリカ、MR2、MR-Sなどにお乗りのお客様が適合オイルがないと非常に残念そうにしておられました。そこで旧い車にも使用できるようにと追加することになったのが、Touringの5W-40です。
もちろんこの5W-40もGRのDNAを受け継いだものにしています。この粘度グレードのオイルの中では非常に軽やかな吹け上がりを実現していますので、ぜひ実感していただけたらと思います。
低粘度オイルでもスポーツ走行が可能なワケ
GRモーターオイルをみていて、どれも粘度が低いのが気になりました。サーキット走行を前提としたCircuitやEnduranceは0W-20ですし、Touringでも上は5W-40までです。粘度が低いオイルはなんとなく不安なのですが、なぜこのような粘度でスポーツ走行が可能なのでしょうか?
これはみなさん気になるところかと思います。スポーツ走行は高回転域を使用し油温が上がるため、高温域での油膜維持を目的として5W-30指定のエンジンに10W-40や15W-50などの高温域粘度が高いオイルを使用するようにしている方もいらっしゃると思います。いわゆる走りの先輩であるとか、車をよく知った人からアドバイスされてそうしているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
自分も先輩からそのように言われた経験があります。笑
低粘度のオイルでスポーツ走行が可能となったことには、大きく分けて2つの理由があります。ひとつは車体側の精度や技術革新です。加工技術の進歩などによって精度が向上し、クリアランスなどをかなり厳密に管理することができるようになりました。またクーリング効率が向上したことも寄与しています。
各パーツの精度、そして放熱性が高まったことでオイルに頼る必要がなくなってきたということですね。
もうひとつは、オイルそのものの高性能化です。ベースオイルの進化により、低粘度のオイルでも高温環境でしっかりと油膜が維持できるようになってきました。そもそも0W-20のオイルを作るには、ある程度質の良いベースオイルを使わないと0W-20の規格自体をクリアできません。GRモーターオイルは、高品質なベースオイルを惜しみなく使うことで低粘度でのスポーツ走行を可能にしています。
愛車の性能をフルに引き出せる
いかがでしたでしょうか。GRがもつノウハウを惜しみなく注ぎ込んだトヨタ純正GRモーターオイル。サーキット走行やスポーツ走行を前提としたハイエンドオイルを国内の自動車メーカーが公式に販売するのは異例ともいえます。
現行車はもちろん、数世代前の車種にも使用可能なオイルがラインナップされているのは嬉しいポイント。開発者の熱い想いが詰まったGRモーターオイル、みなさんもぜひ体感してみてください!