2019年09月01日 (更新:2020年06月18日)
NACAダクトとは?空力と外気導入を両立させる画期的なダクト
スポーツカーのボンネットに3角形のダクトが開けられているのを見たことはありませんか?また自動車雑誌などで「NACAダクト」という文字を見たことがある人も多いかもしれません。今回はそんなNACAダクトについて解説します。
そもそも「NACA」って?
「NACA」とはアメリカ航空諮問委員会(National Advisory Committee for Aeronautics)のことで、1915年に設立されたアメリカ政府の公的機関の一つです。NASA(アメリカ航空宇宙局)の前身となるこの組織は、翼型など航空力学に関係した多くの研究を行っていました。
NACAダクトとは?
NACAダクトはその名の通り上記のNACAの研究の中で考え出された形状のエアダクトのことで、上から見ると三角形で奥に行くにつれて横幅が増える形をしています。
航空機向けに考え出されたNACAダクト
NACAで生み出されたということからわかる方も多いかと思いますが、このダクト形状は最初は航空機向けに考えられたものでした。実際に、NACAダクトは現在の航空機においても冷却用の空気導入口などに用いられていますが、黎明期のジェット機にはこれを推進装置に用いたものもありました。
レーシングカーへの応用
では航空機向けに考え出されたNACAダクトがなぜ自動車にも多く用いられるようになったのでしょう。NACAダクトがレーシングカーに用いられ始める以前の多くのレーシングカーデザイナーたちは、風洞設備の貧弱さなどにより、自分たちのデザインが実際にどのように空力的に作用しているのか知ることが非常に難しい状況の中で開発を進めていました。
この状況のために、彼らの仕事はどうしても手探りにならざるをえず、とにかく様々なものを試し、うまくいったものや他社の速いマシンの形状を真似していくという形で彼らは作業を行っていました。
そんな中で航空力学の権威であるNACAが開発したダクト形状は、彼らにとって非常に魅力的なものだったのです。実は航空機の場合においては圧力回復力が弱いなどいくつか問題を抱えていたNACAダクトですが、自動車に用いる分には大きな問題もなく、このダクト形状は実際に大きな効果を発揮しました。
このようにしてNACAダクトはレーシングカーを中心として瞬く間に広まり、その後一部の市販車にも採用されるようになりました。
NACAダクトを採用した車種
車好きなら誰もが知っている有名スポーツカーを中心として、NACAダクトは意外とたくさんの車に採用されています。
日産スカイラインGT-R(BNR34型)
言わずと知れた名車であるR34型スカイラインGT-RはボンネットにNACAダクトを装備しています。このダクトはR34型GT-Rが最初に登場した際にはありませんでしたが、2000年10月のマイナーチェンジ以降、高性能グレードの「VスペックⅡ」にカーボン製ボンネットとともに装備されるようになりました。
GT-RのNACAダクトはインプレッサWRXシリーズやランサーエボリューションシリーズのボンネットに開けられたダクトと同じく、ツインターボチャージャー冷却のための外気導入の役割を担っています。このダクトにより、GT-Rの場合はダクトがない場合と比べ連続高速時のターボチャージャーの周辺温度を4〜5度下げることに成功しています。
NACAダクトの冷却効果は、日産が1996年にBCNR33型GT-Rでルマン24時間レースに参加した際、ピットストップ後のエンジンストールを防ぐ手段として採用され実証されており、後継車であるR35型GT−Rのボンネットにも引き続きNACAダクトが備えられています。
フェラーリF40
80年代のスーパーカー黄金期を彩った伝説の一台として、そしてあのエンツォ・フェラーリが最後に関わった市販フェラーリとして、今尚語り継がれるフェラーリF40 にもNACAダクトが採用されています。F40にはボンネットだけでなくサイドパネル、リアフェンダーなど様々な箇所にNACAダクトが奢られており、大きな空力的効果や冷却効果を生み出すと同時に、車全体に只者ではない迫力を与えています。ちなみにデザインを手がけたのは他の多くのフェラーリと同じくピニンファリーナです。
この大量のNACAダクトは、F40登場前夜に開発されたコンペティションマシン、288GTOエヴォルツィオーネに採用されたものの応用で、フェラーリのレース向けの開発が多く生かされたものとなっています。NACAダクトはF40だけでなくランボルギーニ カウンタックなど同時代の他のスーパーカーにも多く採用されており、黄金期のスーパーカーのアイコンの一つとなっています。
いすゞジェミニ イルムシャーR(JT191型)
NACAダクトが採用されたのは超高性能スポーツカーやスーパーカーだけではありません。ジェミニ イルムシャーのようなセダンやハッチバックベースのスポーティカーにも採用されていたのです。「スポーティカーとしてのいすゞジェミニ」というと違和感を感じる方も多いかもしれませんが、写真のJT191型が売られていた当時はシビックやカローラレビン/スプリンタートレノなどと並び、いわゆる「ボーイズレーサー」として一定の人気を得ていました。
そんなジェミニの最上級スポーツグレードであるイルムシャーRは180PSものパワーを発生させるターボエンジンを搭載、その冷却のために採用されたのがNACAダクトでした。このイルムシャーRなどのスポーティグレードは国内ラリーなどコンペティションシーンでも多く使われていました。
NACAダクトを後付けする場合は?
ここまで読んでいただいて、NACAダクトを愛車に取り付けてみたいと思った方もいるでしょう。NACAダクトを後付けするには主に2つの方法があります。
NACAダクトが一体成型されたボンネットなどに交換する
アフターパーツメーカーが販売するエアロボンネットやフェンダーにはNACAダクトが一体成型されたものが多く存在します。このようなものが販売されている場合は、パーツごと交換してしまうのが一番てっとり早い方法といえるでしょう。
汎用品や自作したものを装着する
上記のようなパーツが市販されていない場合は、汎用品のダクトが売られているのでそれを取り付けるという手もあります。腕に自信がある方は、型を作ってFRP等で自作してみても良いでしょう。ただし、取り付けの際にボディパネルに穴をあける必要があるため、できればプロの助言を受けた方が無難です。
終わりに
いかがでしたでしょうか。このように、航空力学研究から生み出されたNACAダクトは意外と多くの車に採用されており、後付けすることも可能なパーツです。身の回りの車にNACAダクトが採用されていないか少し探してみるのも面白いかもしれませんね。
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