2021年05月20日 (更新:2024年05月22日)
ATFを交換する必要はあるのか。10万キロ超えでも交換を推奨されない理由
オートマチックフルードの交換は本当に必要なのか。ATFの劣化原因や引き起こされる不具合、修理費用や交換方法などを紹介します。
オートマチックトランスミッションの作動油、ATF
ATF(オートマチックトランスミッションフルード)とは、ギアを自動で変速するオートマチックトランスミッションに封入されているオイル。オートマオイルとも呼ばれます。ATFは潤滑目的の一般的なオイルとは異なり、オイルを介して動力を伝えるため作動油(フルード)として扱われます。ATFの主な役割は次の通りです。
- 潤滑:各パーツの間に入りこみ滑りを良くする
- 作動:動力を伝える、各部へ油圧を伝える
- 清浄:各部の汚れや摩耗粉などを落とし取り込む
- 冷却:AT内の各部の熱を奪い温度を下げる
- 防錆:AT内に油膜を形成しサビの発生を防ぐ
ATFは定期交換すべき油脂類のひとつ
ATFは無交換でOKという話をよく耳にします。近年はATやATFの性能向上によって推奨交換距離が長くなってきているため無交換のまま売却や廃車となるケースもありますが、本来は交換が必要な油脂のひとつ。交換費用は¥5,000〜30,000程度です。
ATFの劣化原因
ATFは水分やスラッジの蓄積などによってしなやかさが失われていきます。特に日本の市街地走行は発進停止の繰り返しが頻繁に起こるシビアコンディションで、ATFが高温になりがち。ATFの温度上昇は酸化や汚れの焼きつき、添加物の変質を引き起こします。
ATFの劣化原因の例
- 高温多湿気候による水分の混入
- 高温による添加剤の変質や酸化
- 汚れや摩耗粉(スラッジ)の蓄積
日本はシビアコンディションに該当しやすい
シビアコンディションとは、自動車メーカーが想定しているよりも厳しい使用状況として設定されている基準のこと。日本国内の走行環境はこのシビアコンディションの条件に当てはまりやすく、ATFを含む車両各部に想定以上の負荷がかかるといわれています。
シビアコンディションの例
- 8km以下の短距離走行
- 登降坂路の頻繁な走行
- 未舗装路などの悪路走行
- 発進停止の繰り返し
- 長時間のアイドリング
ATFの劣化によって発生する不具合
ATFの劣化によって発生するトラブルは多岐に渡ります。
- 変速ショックの増大などの変速不良
- クラッチの滑り(加速力、燃費の低下)
- ATF漏れ
変速ショックの増大などの変速不良
ATの変速機構はATFを介する油圧によって制御されています。ATFに水分が混入したり摩耗粉が蓄積されると正常な油圧制御の妨げとなり、変速遅れ(シフトレバーを操作してもすぐに変速されない)や変速時のショック増大などが発生します。
クラッチの滑り
AT内部には動力伝達の流れを切り替えるクラッチが搭載されています。ATFに溜まった磨耗粉などのスラッジがクラッチに噛み込むと滑りを起こし、動力伝達不良によって加速力の低下や燃費の悪化などを引き起こします。
ATF漏れ
ATFが劣化すると、添加剤の変質や冷却性能の低下によってゴム部品が痛み、ATFの漏れや油圧の逃げによる作動不良を引き起こします。
なぜ10万キロを超えると交換不要なのか
先述の通り日本国内の走行条件はATFに負担がかかりやすく、ATFが劣化すると多くのトラブルが引き起こされます。オートマチックトランスミッションの不具合を防ぎ確実に作動させるためにはATFの交換が不可欠です。
しかし、ATF無交換で10万キロ以上走行した車両は交換を推奨されないケースがほとんど。中には5年または5万キロ無交換の場合は交換すべきでないとされる車両も存在します。これはなぜでしょうか。
交換すると壊れる可能性がある
ATFの交換を推奨されない理由はただひとつ。ATFを新しいものに交換するとATが壊れてしまうからです。
浮いた汚れが故障の原因となる
通常なら、AT内で発生した汚れはATFの清浄作用によって落とされてATF交換と同時に排出されます。しかし長期間無交換で酷使されたATFは清浄作用が劣化しており、汚れはATF内部の細かな油路に蓄積しています。
ここに新しいATFを入れると、蓄積された汚れは新油の強力な清浄作用によってはがれ落ち、ATFの流れにのって各部を循環します。汚れはその途中でバルブやクラッチに噛み込み、変速不良やクラッチ滑りなどの不具合を引き起こすのです。
ATF交換不要は妥協策
つまり、すでに推奨交換時期(距離)を過ぎた車のATFは交換不要というのはATF交換後に発生する不具合を避けるための妥協策。ATの修理は非常に高額(30〜100万円程度)となるため、現状動いているのであればそのままにしておいたほうがいいという考え方です。
逆を言えば、これはATの性能が下がっていたとしてもそのまま走り続けるしかないことを意味します。変速遅れや変速ショックの増大など多少の性能低下が発生していたとしても、それをATFの交換という方法で改善させようとするのはかえって故障リスクを高めるからです。
交換作業にはリスクが伴う
また、店側としても安易に交換作業を請け負うことができません。万が一ATF交換後に不具合が発生した場合、その原因が作業ミスなのか内部の汚れなのかの切り分けや証明が難しく、最終的に店側の責任となる可能性が高いためです。
どうしても交換したいなら少量ずつ交換
長期間無交換の車のATFを交換する場合は、期間を空けながら数回に分けて少量ずつ交換する方法があります。徐々に入れ替えていくことで内部の汚れの落ち具合を緩やかにし、不具合の発生リスクを抑えます(これでも不具合の発生は十分にありえるので注意)。
ATFの適切な交換タイミングは車両ごとで異なる
ATFの最適な交換タイミングは車種や年式、乗り方や走行環境によって大きく異なります。オーナーズマニュアルにもATFの推奨交換時期の記載がありますが、これはあくまでも目安。交換時期の算出には、普段の乗り方はどれくらい負担をかけているのか、現状どんな症状が出ているのかを診てもらう必要があります。乗り方によっては10万キロ無交換でOKという車種も存在するため、まずはディーラーへ足を運んでみましょう。
定期的に気を配りたいATF
ATを調子良く保つにはシビアコンディションとならない走行を心がけることが大切ですが、それ以上に定期的なATFの交換が重要です。エンジンオイルとは違い普段馴染みのないATFですが、車のコンディションの把握と自分の乗り方を見直す良い機会と思って、一度プロへ相談してみましょう。
ATF交換で性能回復を実感している人が多い
ATFを交換後、全体的なフィーリングや加速感、シフトラグが減った(改善した)という投稿が多数見られます。皆さんの投稿もぜひチェックしてみてください。